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認知症の母と面会していると、会話がどうしても同じ内容に偏ってしまうことがありました。
母の場合は、祖母への不満や父への不満、そして「施設から出たい」「帰りたい」という話が中心でした。
もちろん、母にとってはその時に感じている大切な気持ちです。
でも、毎回その話ばかりを聞いていると、母のつらい気持ちをさらに強くしてしまっているようにも感じました。
そこで私は、ただ聞くだけではなく、
私の方から、母が好きだったことを少しずつ聞いてみよう
と思うようになりました。
絵本を作ることが、会話を変えるきっかけになりました
「お母さんの絵本を作ろうと思うんだけど」
そう伝えたとき、母は少し照れたような、うれしそうな表情をしました。
認知症が進み、文字を読むことが難しくなっていくことも考え、
文章だけではなく、絵とひらがなを中心にした絵本なら、
母自身も楽しめるのではないかと考えました。
そして、絵本の内容を考えるために、
母が好きだったことを少しずつ質問するようになりました。
認知症の母との会話が広がった5つのきっかけ
1.「どんな花が好き?」と聞いてみる
母は「花を育てるお話がいい」と言いました。
そこで、
「どんな花が好き?」
と聞いてみると、最初は少し考えていましたが、
チューリップ、あじさいなど、少しずつ花の名前が出てきました。
答えを急がずに待っていると、
次の花の名前を思い出すこともありました。
私にとっては、
「まだこんなに好きな花を覚えているんだ」
と気づく時間にもなりました。
2.「好きな色は?」と聞いてみる
母はもともと色へのこだわりが強く、
「どんな服の色が好き?」
と聞くと、楽しそうに答えてくれました。
「黄色い服が好き」
という答えを聞き、
絵本の主人公ふみこさんには黄色い服を着せました。
母が好きだった紫色は、スカーフに取り入れました。
昔から好きだったものについて聞くと、
会話が自然に続くことがあるのだと感じました。
3.「どんな歌が好き?」と聞いてみる
歌うことが大好きな母に、
「どんな歌が好き?」
と聞いたこともありました。
母の答えは、
「楽しい歌」。
その言葉を聞いて、私は子どもの頃、
母がよく童謡を歌っていたことを思い出しました。
質問をしたことで、母の記憶だけではなく、
私自身の昔の記憶もよみがえってきたのです。
4.今、目の前にあるものから話を広げる
母は施設で、時間があると窓の外をよく眺めているそうです。
葉っぱが風に揺れる様子を見ながら、
母は、
「葉っぱが揺れて、歌っているように見えるのよ」
と話してくれました。
その言葉を聞いて、
歌うことが好きだった母らしい感性だなと思いました。
昔のことを無理に思い出してもらおうとしなくても、
今見えているものや、その場で感じたことから会話が広がることもあるのだと感じました。
5.答えにくそうなら、質問の角度を変えてみる
母は60歳を過ぎてから山登りを始め、
全国のいろいろな山へ出かけていました。
そこで、
「どこの山が一番良かった?」
と聞いてみましたが、会話はあまり広がりませんでした。
山の名前を思い出すことが難しかったのかもしれません。
そこで少し質問を変えて、
「山頂で歌ったりしなかったの?」
と聞いてみました。
すると母は、
「リーダーがそういうタイプじゃないから」
と、少しそっけなく答えました。
それでも、そこには母らしい受け答えがありました。
答えが出にくい質問を何度も繰り返すより、
別の角度から聞いてみる方が、会話につながることもあるのだと感じました。
少しずつ表情がやわらかくなりました
面会に行ったばかりの母は、
つまらなそうで、険しい表情をしていることもありました。
でも、絵本の内容を考えるために、
花や色、歌などについていろいろ聞いているうちに、
少しずつ表情がやわらかくなっていくように感じました。
あるとき、
「絵本の主人公の顔写真を撮るよ」
と言って写真を撮りました。
そのとき母は、久しぶりににっこり笑って、
「なるべく笑顔でいようと思うの」
と言いました。
いつも実践できているわけではありませんが、
その時に見せてくれた笑顔は、私にとってとても印象に残っています。
会話から「思い出絵本」が生まれました
私は、母との会話をできるだけ明るい方向へつなげたいと思っていました。
認知症になった今の姿だけではなく、
優しかったこと、好きだったこと、楽しんでいたこと。
そんな母の一面を、家族や孫たちにも残しておきたいと思ったからです。
そうして、母との会話から
「ふみこさん」の絵本が生まれました。
絵本を作ることが、認知症そのものを改善するということではありません。
それでも私の場合は、
「何が好きだった?」
「どんな色が好き?」
と聞くことで、
それまでとは違う会話や表情に出会うことができました。
もし認知症のあるご家族との会話に困っている方がいたら、
まずはその方が昔好きだったことを、一つだけ聞いてみてもいいかもしれません。
正しい答えを求めるのではなく、
出てきた言葉や表情を、そのまま大切にする。
そこから、家族だけの新しい会話が始まることもあるのではないかと思っています。
認知症の家族との面会そのものがつらく感じている方へ、私が会話の仕方を変えるまでの体験はこちらに書いています。
認知症の母との面会がつらい|「帰りたい」を聞き続けた私が会話を変えた理由

