忘れていくことが増えても、大切な思い出までなくなるわけじゃない。
好きだった歌、育てていた花、よく出かけた場所。
家族の記憶を、一冊の絵本に残してみませんか。
母との時間から始まった「思い出絵本づくり」
私が「思い出絵本」を作ろうと思ったきっかけは、認知症になった母でした。
認知症が進むにつれ、母は家族に対して聞くのがつらい言葉を口にしたり、
外へ出たまま帰ってこなくなったりすることもありました。
その後、脳梗塞を発症し、父との二人暮らしを続けることが難しくなった母は、
施設で生活することになりました。
面会に行くと、母から出てくる言葉は、
「帰りたい」
がほとんどでした。
涙を流す母を見るのはつらく、私自身、面会へ行くことをためらってしまうこともありました。
でも私は、
今の母の中にあるのは「帰りたい」という気持ちだけではないはずだと思いました。
楽しかったこと。
好きだったこと。
家族と笑った時間。
母らしい優しい気持ち。
そんなものを少しでも思い出すきっかけを作れないだろうか。
そこで、母の好きだったことや昔の話を少しずつ聞きながら、
一冊の小さな絵本にしてみることにしました。
母の「好きだったこと」を聞いてみました
母は、歌うことが大好きでした。
花を育てることも、山を歩くことも好きでした。
「どんなお話にしたい?」
「どんな花が好き?」
「どんな服が好き?」
絵本を作るためにそんな話を聞くと、
それまで「帰りたい」という言葉が中心だった母から、
花の名前や好きな色、昔のことなど、少しずつ違う言葉が出てきました。
その時間は、母が少し穏やかになったように感じることもありました。
もちろん、これは私と母の場合の話であり、
絵本を作ることで認知症が改善するということではありません。
それでも、好きだったことについて話す時間が、
本人と家族が一緒に過ごす時間を少し変えてくれることもあるのではないか。
私はそう感じています。
こうして「ふみこさん」の物語が生まれました
母との会話から生まれたのが、「ふみこさん」の物語です。
第1巻は『ふみこさんの はなうたガーデン』。
第2巻は『ふみこさんと うたう はっぱ』。
物語の中の「ふみこさん」は、母がモデルです。
母が好きだった歌や花、山歩き、好きな色。
そして、母自身が話してくれた言葉を少しずつ集めながら、物語にしました。
私は出版社でも、介護の専門家でもありません。
母を思う一人の家族として、この「思い出絵本づくり」を始めました。
「私の家族にも、まだ聞いていない物語があるかもしれない」
このページを読んだ方に、そんなふうに思っていただけたらうれしいです。
第1巻『ふみこさんの はなうたガーデン』

第1巻は、母に
「どんなお話にしたい?」
と聞いたことから始まりました。
すると母は、
「お花を育てたりするのがいいなぁ」
と話し、好きな花を聞くと、チューリップやあじさいなど、いくつもの花の名前を挙げてくれました。
母は歌うことも大好きでした。
そこで、花を育てる楽しさと、歌うことの楽しさを一つの物語にしました。
「どんな服が好き?」と聞くと「黄色い服」と答えたので、
絵本の中のふみこさんも黄色い服に。
好きな紫色は、スカーフに取り入れました。
完成した絵本を施設へ持って行くと、
母はページをめくりながら、一生懸命読んでくれました。
その姿を見て、
「今の母だけではなく、こんな一面もあるんだ」
ということを、家族や孫たちにも残しておきたいと思いました。
第2巻『ふみこさんと うたう はっぱ』

第2巻のきっかけは、父のひと言でした。
第1巻を父に見せたとき、
「今度は山登りが好きだったから、そんな話もいいかもね」
と言われました。
そのことを母に話してみると、
昔好きだった山歩きの話へとつながっていきました。
そして今、施設では窓の外の葉っぱが揺れる様子をよく眺めているそうです。
あるとき母が、
「葉っぱが揺れて、歌っているように見えるのよ」
と話してくれました。
歌うことが好きだった母。
山歩きが好きだった母。
揺れる葉っぱを見て「歌っている」と感じる母。
その三つが自然につながって生まれたのが、
『ふみこさんと うたう はっぱ』です。
第2巻は、できあがったばかりです。
これから施設へ持って行き、母がどんな表情で読んでくれるのか、私自身も楽しみにしています。
あなたの家族にも「思い出絵本」を
思い出絵本を作るのに、特別な技術は必要ありません。
まずは、その方が好きだったことを一つ思い出してみてください。
- 好きだった歌
- 育てていた花
- よく出かけた場所
- 好きだった食べ物
- 仕事や趣味
- 家族との思い出
そこから、
「どんなことが好きだった?」
「どこへよく行った?」
と少しずつ話を聞いてみます。
答えが短くても、話が途中で変わっても大丈夫です。
出てきた言葉や表情をメモしておくだけでも、物語の大切な材料になります。
思い出絵本を作る5つのステップ
- 好きだったことを一つ選ぶ
- 昔のことを少し聞いてみる
- 写真や思い出の品を探す
- 短い物語にする
- 完成したら一緒にページをめくる
私が大切にしたいこと
思い出を聞くことは、正しい答えを求めるためではないと思っています。
「覚えている?」
「思い出して」
と無理に促すのではなく、
写真や絵を見ながら、その時間を一緒に楽しむことを大切にしたいです。
この「思い出絵本づくり」は、
認知症を治療したり、症状の改善を保証したりするものではありません。
家族の思い出を形に残し、
ご本人とご家族が会話をするきっかけや、
穏やかな時間を過ごすきっかけの一つとして、
私はこの方法を紹介しています。
「ふみこさん」の物語はこれからも続きます
母の中には、まだ私が知らない話がたくさんあると思っています。
これからも母の話を少しずつ聞きながら、
「ふみこさん」の物語を一冊ずつ増やしていく予定です。
そして、このページや絵本をきっかけに、
「うちのお母さんの話も絵本にしてみようかな」
「お父さんの昔の話を聞いてみようかな」
と思ってくださるご家族が、一人でも増えたらうれしいです。
世界に一冊だけの、あなたの家族の「思い出絵本」を作ってみませんか。
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認知症の家族との会話や面会に悩んでいる方へ、私自身の体験をこちらの記事にもまとめています。